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■なぜ内科治療とのControversyになるか
治療対象の大部分は,肺尖部や肺門部より離れた胸膜下にできる限局性の気腫性嚢胞(ブレブ,ブラ)の破綻によつて発生する若年型の自然気胸である.これらは開胸によつて明らかな穿孔が,多数例の嚢胞に確認されている.一方,肺に既存の呼吸器疾患を有し,患側に気胸の発生するものを続発性気胸としているが,これらは高年層に多く,全気胸例のほぼ10%にあたる,今までに肉芽腫性疾患(結核,Sarcoidosis,Histiocytosis X),肺気腫,肺癌,転移性肺腫瘍,蜂巣肺(肺線維症,過誤腫性肺脈管筋腫症,Marfan症候群),肺硬塞,肺炎などに伴つた症例が報告されている.しかしこの場合,直接原疾患が肺を破綻するのか,原疾患によつて生じた気腫病変によるのか,併存している気腫病変の破綻によるのか不明である.例えば,肺癌開胸例の多くに観察される如く,癌に近接して気腫病変が存在する場合と,全く癌とは独立した気腫病変が存在する場合とがあるからである,さらに近年注目されている気胸に,横隔膜や肺に子宮内膜症を有する月経随伴性気胸(catame—nial pneumothorax)がある.これは通常右側に発症し,横隔膜に多数の裂孔を生じている疾患である.以上の症例を対象としてその治療を考えて行くが,主として大多数を占める若年型の自然気胸を中心にまとめてみる.
気胸の治療の基本は,保存的にしろ外科的にしろ,肺を膨張させて再発を防止することであり,穿孔部位の修復と胸膜間に癒着をおこさせることはいずれにも共通した方針である.最近の治療方針は入院治療を原則としている.虚脱の程度によるが,first choiceは穿刺脱気もしくは胸腔ドレナージ後にHeimlich flutter valveを装着させている.胸水貯溜例には水封式ドレナージを行なう.これらの方法で膨張が得られない場合に低圧持続吸引を追加しているが,膨張したところで再び水封式に変え,再虚脱するかを見たり,適宜交互に使い分けている,しかしこれらの脱気療法は,いずれも肺の再膨張を計るにすぎず,直接穿孔部位を修復するのではなく,短時間内におこる自家修復機転に期待しているにすぎない.従ってこの疾患の特徴である再発を防止することはできない.初回吸引療法後の再発率は30%であり,再発回数を増すごとに同じ方法で治療を続けると,ほぼ50%が再発を繰返す結果を得ている.このことを逆に考えれば,保存療法でも約半数が治癒するということであり,さらに40歳を境に発病が減ること,小さな病巣の割に開胸という大きな侵襲を加えることなどの点が論争を起こす所以である.そこで次段階として胸膜の癒着を意図して,タルク溶液,ブロンカスマ・ベルナ,自家血,高張糖液などの注入療法が考えられるが,この方法でも試みた症例の20〜30%に再発を見ている.最も一般的に行なわれているタルク溶液注入では,発熱,胸痛,肉芽腫形成に加えて,最近,肋膜中皮腫が発生したという報告があり,やむを得ぬ症例を除いて積極的な注入療法にも限界を感じている.
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