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はじめに
欧米では消化性潰瘍,とくに十二指腸潰瘍に対して古くから迷走神経切断(離)術が行なわれたが,これは胃切除術はかなり危険性が高く術後愁訴の多い手術と考えられたからである.はじめは幹迷切が単独に行なわれたが,これでは往々にして障害が多すぎて結果がよくなかつた.後にドレナージ手術が附加されるようになつて治療効果も高まり,広くうけいれられ,十二指腸潰瘍に対して最も一般的な手術となつた.さらに迷切の術式にもいろいろの変遷が加わり今日では選択的胃迷切(選迷切),近位選択的胃迷切(選近迷切)も相当行なわれているようである.わが国ではこれに反して広範囲胃切除術が早くから安全で治療効果が高いものという声価を得,広く定着した.しかし胃切除術にも若干の問題点があり,これをさけたいという目的で欧米を模して迷切術が徐々にとりいれられ,1962年頃からだんだんと各所で施行されるようになつた.しかし胃切除術にくらべればはるかにその歴史が浅く,また一部を除いてはわが国ではまだそう多くは採用されていないという現状である.また迷切術という手術は理論的にはすぐれ,胃を大きく切除しないというような点で良性疾患である潰瘍症の治療には甚だ魅力的であるが,その反面未解決な問題も多い手術である.このような現状で,わが国における迷切の遠隔成績を他と比較して論ずるには観察期間や資料がまだ不十分かも知れないが,われわれの外科では山岸三木雄前教授が1960年に迷切兼幽門洞切除術を施行して以来,かなり積極的な態度で迷切を採用し今日に到つており,10年経過例も相当数有しているので,これをもとに長期遠隔成績について以下のべてみたい.なお,近年問題になつている選切迷切の症例も1971年以来の自験例が80例に達したのでこれとの比較もあわせて行なうこととしたい.
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