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はじめに
鼠径大腿ヘルニア(Groin Hernia)の内で,その数が絶対的に多いのは外鼠径ヘルニアで,大腿ヘルニアの発生頻度はその2%前後に過ぎない.しかし,鼠径大腿ヘルニア罹患率が国民の3%以上に及ぶので,大腿ヘルニアもまた日常の臨床で遭遇する外科的疾患の地位からはずれるものではない.
本症の頻度等に関する統計的報告は患者の種族,病院の種類等によつて違うので,一率に言うことはできないが,白人の本症罹患率(4〜6%)は本邦人に比べて高いようである.私どもの病院の20年間6,000例の鼠径大腿ヘルニアではその1.8%(108例)を本症が占めていて,都立墨東病院の3%(2126例中65例)に比べて少ない.原因は私どもの病院のヘルニア患者年齢層バランスが墨東病院よりも小児層寄りに傾いている結果であろう.性別では女性に多く,男性に少ない(私どもの病院では6:1)のは世界共通の現象である.その原因は骨盤上口(Apertura pelvis)の広さに起因する鼠径靱帯の延長またはCooper靱帯へのAponeurosis transversus abd.とFascia trans—versalis付着部狭小が大腿輪(Femoral ring)の拡大を招来し,腹圧もここにかかりやすくなる骨格上の特色に求める学者が多く,また妊娠は腹圧を助長するとともに,妊娠による鼠径靱帯,恥骨靱帯の二次的弛緩も本症発症の誘因と考える人もいる.腹圧が広い大腿輪に腹膜前脂肪織,さらに腹膜をおしこんで,腹膜憩室の橋頭堡(ヘルニア発生素因)を造り,これがやがて大腿ヘルニアに発展すると考えられているのである.本症が女性でも経産婦で,50歳以上の高齢者に多い事実がこの推定を裏付けしている.
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