臨床メモ
僧帽弁狭窄症と塞栓症
寺本 滋
1
1岡山大学医学部砂田外科
pp.502
発行日 1969年4月20日
Published Date 1969/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204827
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塞栓症は代表的な急性動脈閉塞性疾患で,ほとんどが後天性心疾患とくに僧帽弁狭窄症に合併する左房血栓に基因し,なかでも心房細動例に圧倒的に多いことが知られている.教室で僧帽弁交連切開術を行なつた症例は156例あり,塞栓症の既往歴を有するものは15例(9.6%)で,うち6例に左房内血栓をみとめている.また無症状でありながら左房内血栓のあつたものが6例(3.8%),手術時塞栓発生を来したものが3例(1.9%)で,このうち2例は致命的な結果に終つている.したがつて9.6〜15%に塞栓症発生の危険性があるものと考えられる.これら24例のうち,23例に心房細動がみられており,その頻度の高いことがうかがわれる.
塞栓症の発生部位および範囲により特有な症状を示すのは当然のことであるが,中枢神経系はさておき外科医にとつては四肢動脈,なかでも下肢塞栓症がとくに問題といえる.成書に記載されているように塞栓部以下の劇痛,皮膚の変色をきたし脈拍を触知しない.大動脈分岐部におこつたいわゆるSaddle Embolismのときは両下肢の脈拍を全く触れない.これらの症状も比較的軽く見逃されて,のちに間歇性跛行を来して気付くこともある.
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