雑感
東京オペグループ
杉山 四郎
pp.791
発行日 1965年6月20日
Published Date 1965/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203649
- 有料閲覧
- 文献概要
「もう1人手(医者)があればどんなにか楽に手術ができるだろうに!」前立ちのプレも額に汗を滲ませている.手術の時だけ狩り出された奥さんは先生から聞きなれない薬名やらなんやらでウロウロするのみ.それを自分の医院で手術をするというだけで頭に血がのぼつてしまつた医者は,いいようのない不安といらだだしさを奥さんにぶちまける.手術は亢奮してうろたえているスタッフではまだ終りそうもない.いよいよルンバールも切れて患者は身を綟らせて苦しみ始めた.奥さんにはなにもできない,さあ困つた——といつてもこんな状態ならまだ心配はない.陣痛発来後3日目,急に帝王切開だ.やつと胎児が出たが呼吸をしない,クランケはショック状態.「ああ手術をするのではなかつた」と久し振りに持った錆びたメスがうらめしい.クランケの死.患者の家族の絶叫と怒号,告訴,莫大な慰謝料,世間体,それからそれへと不安な暗雲のごとく心の中に拡がつてゆく.こんな気持を経験したことはないといわれる開業医が果しているだろうか.
Copyright © 1965, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.