雑感
ランドアルツトの憩いの一刻
A,B生
pp.810
発行日 1965年6月20日
Published Date 1965/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203655
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夜の外来診療がやつと終つて,イライラした頭を前後にふりまわしながらやつと茶の間に坐りこむ.テレビのスウィッチをひねるとモノマネ歌謡曲の時間である.セーラー服の娘さんが泥臭いゼスチュアー入りで下手な歌をうなつている.やつと歌い終ると審査員の古賀政男先生が飛びきりの愛想笑いで話しかける.「イヤー非常に一生懸命に歌われましたね,結構でした.ただ残念なのは,基礎がちよつとできていませんね,基礎をしつかりやつて,それからエライ人のマネをしましようね.ほんとに残念だつた.もつと勉強してまたいらつしやいね」というわけである,いとも複雑な表情で娘さんはひつこんでゆく.視ている筆者の方もやや複雑な感慨で眺めている.「なるほど,基礎をしつかりやつてからね,か.古賀先生なかなかやるわい」と微苦笑しながらさき程挨拶にみえた患家の母親の姿が脳裏をよぎる.
「まず基礎をしつかりやつてからね」という陳腐な文句が,実は人生街道のあらゆるルートを厳然と支配している鉄の掟であるようだ さきほどの患家というのは実はつぎなる次第である,その家の大事な大事な一人息子が数日前から得態の知れない左下腹部の鈍痛を訴えている,主治医の往診の度びに「盲腸の心配はありませんか」と家人は聞くのであるが,ランドアルットは「ね,みてごらん,右の盲腸のところはこの通り圧しても全然痛がらないでしよう.
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