Japanese
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展望
膵癌をめぐつて—Ⅰ.癌と血栓栓塞症
The thromboembolic syndrome associated with cancer
渋沢 喜守雄
Kishuo SHIBUSAWA
pp.999-1010
発行日 1962年9月20日
Published Date 1962/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202977
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はしがき
すでに本欄で何回か展望されたように,肺癌は実に不思議なる全身症状を,好んで発呈する.全肺癌の20%ほどは,癌巣局所像からは何とも理解しえない,全身症状を呈するといつてよい.
膵癌もまた,それに劣らぬ多彩な全身症状を,あらわしてくるようである.本欄で述べられた限りでも,Cushing症候群・高カルシウム血症などがあつた.下垂体副腎に原発でない,他臓器癌にもとづくCushing症候群の実に85%は胸腺癌・肺癌・膵癌によつて占められる.上皮小体原発でなく,また腸管の吸収亢進に関係のない,癌性高カルシウム血症の20%は膵癌が占めている.今回はラ島腫瘍については触れないが,また,前立腺癌・子宮癌・肺癌などと共に,線維素溶解・全身出血傾向を招きうるというような周知の事実にも触れないが,それらを除いても,これから述べられるような多くの全身異常を,単なるチャンス以上の有意の相関関係において,発現するのである.すなわち,いわく血栓栓塞症(医学用語では塞栓が採用されるが,しばらく栓塞を使わしてもらう),いわく癌性neuropathy,いわく溶血性貧血,いわくカルチノイド症状,いわくdermatom-yositis,いわく原因不明の持続発熱,等々である.消化管・消化腺の癌は極めて多いものであるが,膵癌を除いて,ほとんどすべて,こういつた全身症状を伴うことがない.
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