特集 手こずつた症例―私の経験した診断治療上の困難症(Ⅰ)
胃外科の経験
堺 哲郎
1
1新潟大学医学部
pp.443-446
発行日 1962年6月20日
Published Date 1962/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202898
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1.早期診断?
今日,癌のいわゆる早期診断法によつて小さい癌の腫瘤を発見出来たとしても,それが果して癌全体の経過からみてほんとに早期であろうか.私はいつもその点に疑問を持つ.今仮りに径10cmの腫瘤と径1cmの腫瘤を比較する場合,われわれは肉眼で判定する習性があるから,前者は大きく後者は小さいとするのはいいとしても,後者の場合には早期に診断出来たという.しかし癌症という刻々と癌細胞が増殖を遂げつつあるものを対称とするからには,それが果して正しいであろうか.とも角も癌腫瘤が出来上つてしまつたからには五十歩,百歩の差でしかないように考える.
胃癌で,手術出来るまでの病歴の長いことは必ずしも診断がおくれたという不利だけとは断定し難い.むしろ病悩の発現から手術までの期間が長かつた症例がむしろ術後生存率がよいとか,あるいは病悩期間と根治切除可能率とは必ずしも平行しないという,およそ早期発見の思想に抵触するparadoxica1なdataがMayo clinicやLaheyclinicから報告されている.少し許り早く発見したからといつて根治率がこれに伴つて向上するという簡単なことではないことを日常いやという程思い知らされている.
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