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1. 緒言
惡性腫瘍に対する放射線(X線及びγ線の範囲の放射線)の作用の根本をなすものが,腫瘍細胞の破壊にある事は今更多言を要しない. 即ち,或一定量の放射線のエネルギーが或種の細胞に吸收された場合に,その細胞に生物学的変化を生じ,その線量が或一定量以上に達した場合に,その細胞が死滅するという結果を生ずるわけであつて,我々はこの場合の放射線の量を以て,その細胞に対する致死量と称するのである. この線量は一方に於ては照射される細胞の種類によつても異るのであるが,他方に於て放射線の照射條件の相違によつても著しく左右されるものである. 然しながら,この細胞の致死量が何故に細胞の種類や照射條件如何によつて著しく左右されるかの理由に至つては,我々が臨床上或は実驗的経驗によつて知り得た事実以外には多くを知り得ないのである. それにも拘らず,これらの事実は,癌の放射線治療に当つて,最も重要な根拠となる問題である. 我々が放射線によつて癌を治療する場合は,常にin vivoの問題であつて,決してin vitroの問題ではない. 從つて一方に於て癌の発生した生体の全身の放射線に対する反應を考慮しなければならないと同時に,他方又癌の発生した臟器或は組織の放射線感受性(耐容量)の問題をも併せ考えなければならないのは勿論である.
私がこれから述べようとする問題は,單細胞生物に放射線を照射した場合や,摘出した腫瘍組織を皿の上に乗せて照射した場合ではないのである.勿論こうした実驗的な研究から生体内の腫瘍か照射を受けた場合を類推する事は結構であるけれども,皿の上に乗せた腫瘍細胞が死滅するに必要な放射線量を,直ちに生体内に発生した腫瘍の治療に應用しようとするならば,それは甚だしい暴挙であつて,無謀な企てといわなければならない.生体内の反應は著しく複雜多岐であり,今日迄に明解な説明がついて居らない問題が沢山残されている.然しながらそのうちで或程度の説明が與えられている基礎的事項であつて,しかも放射線治療施行上,是非知つておいて頂きたいと感する諸点に就て少しく述べてみたいと思う.
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