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本書は,代表的な肛門疾患である痔核,痔瘻,裂肛について,イラストを豊富に用い,肛門手術を基礎から学ぼうとする初心者に対して分かりやすく解説した入門書である.と同時に,消化器外科,特に下部消化管外科を専門としている専門医に対する肛門手術の深さを説いている専門書でもある.この一冊に,初心者から専門医までを対象とした幅広い内容が凝縮されている.
肛門疾患には治療上,難しい点がいくつかある.単一の術式でも,実際の手技の微妙な違いで結果は大きく異なってしまう.手術の結果は,術後すぐに分かり,排便時など日常生活で症状を感じる機会が多いため,手術の患者に与える影響は手術直後から大きい.こうした肛門疾患の特性を背景に,本書には,全体を通して著者の肛門疾患の治療に対する強いそして明確な思想が流れている.根底にある基本的な考え方は,①根治だけを目指して術後に機能障害を生じてはならない,②術後の不定愁訴や肛門狭窄などの合併症を避けて,機能面,形成面で患者の満足する治療を目指すことが重要である,③良性疾患であるため,必要最小の過不足ない手術を心がける必要がある,という点である.著者自身も,「術者の自己満足で徹底的に手術するのは避けるべきである」と述べている.こうしたコンセプトで,これまで他の追随を許さない多くの症例を経験してきた著者が,具体的な手技,工夫を紹介している.メッセージの一つ一つが,著者のこれまでの経験を基に,著者自身が作り上げてきたものである.個々の手術手技の説明は,きわめて詳細,具体的かつ明確で,明日からの臨床現場ですぐに応用できる内容となっている.特にイラストが有用に利用されている.また,術式ごとに実際の手技を行う上での細かい注意点やコツが示されている.これらは,一見単純な内容に見えても,実はその裏で膨大な症例での試行錯誤を経て,考え抜かれた上で提示されているメッセージだと思う.こうした貴重な,そして奥の深いポイントが随所にみられる.ここが初心者だけではなく,消化器外科専門医にとっても本書が貴重である所以である.
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