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腸間膜血管に塞栓や血栓などの器質的病変,物理的閉塞が存在しないにもかかわらず腸管が乏血,虚血状態に陥り,壊死に至る重篤な疾患は非閉塞性腸管虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)と呼称されている.NOMIの疾患概念自体はかなり以前から報告されていた(Ende, 1958)のでご存知の方は多いと思われるが,動脈や静脈の血栓症など急性閉塞性疾患に比べてその認知度は低い時代が長かったように思われる.しかし,近年の高齢化社会によって本疾患の発生頻度も多くなり,注目される疾患となりつつあるので,本稿ではこのNOMIについて述べてみたい.
NOMIの病態の本質は腸間膜・腸管壁動脈を灌流する血液量の減少に起因するものである.つまり,心不全などの心拍出量低下による低灌流状態・脱水・出血性ショック・敗血症性ショック・腸閉塞による腸管内圧の上昇とそれによる粘膜下血流に対する血管抵抗の上昇・昇圧剤投与による血管収縮,それによる粘膜下微小循環不全などが挙げられる.多くの場合,ひとたび血管痙縮・虚血に陥ると容易に回復せず,よって腸管は急速に壊死の状態に陥り,ほどなく腹膜炎・敗血症となる場合も多い.しかし,必ずしも穿孔に至るわけではなく,したがってfree air signは認められず,このことが診断に躊躇する一因になるのであろう.しかし,何より本疾患に対する知識というか,疾患概念の周知が十分でない場合,あるいは理解・経験のない場合,往々にして診断が遅れることが多いのも事実であろう.その結果,緊急手術を行っても死亡率は70~100%(John 2000, Bassiouny 1997)と極めて高い.いうまでもなく診断に至らない場合や保存的療法では救命はおぼつかないということになる.
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