1200字通信・47
はじめての法医解剖
板野 聡
1
1寺田病院外科
pp.1503
発行日 2012年12月20日
Published Date 2012/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104381
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- 文献概要
少し前の事ですが,医学部に通う娘から携帯電話にメールが届きました.そのなかで,「法医学の解剖実習が始まって,いきなり多発骨折の司法解剖を見た」とありました.「気分を悪くした人もいた」と続けられており,それだけ悲惨なものであったと想像され,娘の気持ちを心配することになりました.今となっては,気分を悪くした学生さんが立ち直ってくれることを祈るのみであります.
その夜,なんと返事をしようかと考えているうちに,自分が経験した,はじめての法医解剖の光景を思い出すことになりました.それは,無理心中をはかった母親に頸を絞められて亡くなった幼い兄妹の司法解剖でしたが,頸には絞められたときの手の跡が鮮明に残り,顔色は土気色をしていて,なるほど教科書どおりだと思ったことでした.ただ,それにしても子供の表情があまりにも穏やかだったことが印象的で,単にはじめての法医学の解剖実習というだけではなしに,記憶に深く刻まれることになったようです.実習の開始後に,学生に混じって見学していた若い婦人警官が蒼ざめて部屋を出ていったことも思い出されますが,あらかじめ色々な写真を見せられている学生との違いを感じたことでした.ただ,今になってみて,当時の婦人警官や気分を悪くした学生さんのほうが,よほどまともな精神の持ち主かも知れないと思うことにはなっています.
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