研究の想い出
法医学往来
松倉 豊治
1,2
1大阪大学
2兵庫医科大学
pp.204-210
発行日 1972年8月15日
Published Date 1972/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902933
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法医学へのきつかけ
江戸川乱歩や小酒井不木,牧逸馬ら諸氏が,当時のいわゆる探偵小説や推理小説を盛んに雑誌『新青年』に発表していた大正中期の頃,私は中学生であつた。そしてこれらの読物を愛読し,殺人や自殺とか,エロだのグロなどといつた事柄に,ひそかに興味を持つていた。もつともこの年頃の少年少女は,大ていそういうものである。今でも……。
その私が大正12年(1923)4月,満16歳余で当時の大阪医科大学予科に入学して間もなく,何かの講義が臨時休講になつた。いつもはそんな時,校庭の草つ原に寝そべつて誰彼となく無駄話を交わして過ごしてしまうのに,そのときは何を思つたのか,殊勝にも学校の図書室に入つてみた。特に勉強するという積りはなく,何か面白い本でも……と思つたまでのことである。その時ふと目にとまつたのが『囚人の心理』という本である。探偵小説類を愛読していた少年にとつて,これは少少魅力のある表題であつた。
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