特集 外科医のための最新癌薬物療法
Ⅲ章 薬物療法―あらたな展開
14.分子標的治療薬
後藤 悌
1,2
,
宮川 清
2
Yasushi GOTO
1,2
1東京大学大学院医学系研究科呼吸器内科学
2東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター放射線分子医学
pp.266-271
発行日 2011年10月22日
Published Date 2011/10/22
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407103816
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分子標的薬とは
分子標的薬とは癌細胞の増殖・転移を司る分子機構を特異的に阻害するものである.これに対し,従来の抗癌剤は細胞傷害性治療薬と称され,癌細胞が正常細胞よりも活発に分裂する性質を利用して治療効果を得ていると考えられてきた.細胞傷害性治療薬も作用機序を探ることによって標的分子が明らかになってきているものもある.分子標的薬の最大の特徴は,標的分子を創薬にはじまる薬剤開発の段階から定めていることであるといえる.
細胞傷害治療薬の開発は,抗癌作用をもつ物質を同定し,毒性・効果の観点からヒトへの治療に有用であるかどうかを検証する作業である.世界ではじめて使用された抗癌剤であるナイトロジェンマスタードは第一次世界大戦で使われた毒ガス(マスタードガス)を改良したものである.大量に被曝した兵士の白血球が低下したことや放射線と同じような変異毒性があったことから,悪性リンパ腫の治療に用いられた.膨大な数の物質をスクリーニングし,目的と見合う化合物を探し出すという過程を経て開発されてきた典型的な薬物も多い.パクリタキセルは,微小管阻害薬に分類され,多くの癌種に使用されている抗癌剤である.1963年にアメリカ国立癌研究所がタイヘイヨウイチイの樹皮抽出液中に強力な抗腫瘍性物質が含まれていることを発見し,1971年に樹皮から分離された.
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