- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
病理学は,病気の原因およびその成り立ちを究めようとする学問である.医学生たちは,昔も今も,そして将来も,まず病理学の講義と実習を通して,多くの病気の概念やそれらの原因や成り立ちを理解するために必要な医学用語に向き合うことになる.医学用語を知り,使えるようになる過程で重要なことは,できるだけ普通の人が普通に話す言葉でも説明できるものであるということを意識させるということである.これを怠ってきた医師は,真のインフォームド・コンセントを患者から得ることなど望むべくもない.しかし,当然のことながら,平易な言葉で述べても正確さを欠いては本末転倒になりかねない.また,大部分の病気は,必ず細胞,組織あるいは臓器の形態的変化を伴う.それらにおいては,形態が示す意味を正しく解釈することなしに病気の正確な解釈を行うことはありえない.つまり,平易な言葉を使って正確に書かれた文章と形態変化を適切に示す写真とからなる手引書は,病理学の教育にはぜひとも必要なものである.この度刊行された『組織病理カラーアトラス』は,現時点でそういった理想にもっとも近い書の1冊である.
本書は,上述したように平易な言葉で正確に書かれているうえに,どこを読んでも落ち着いた気持ちで読むことができる.これは,経験豊富で教育熱心な病理医が3人ですべてを書き上げているということが大きいであろう.3人の筆者,坂本穆彦杏林大学教授,北川昌伸東京医科歯科大学教授,菅野純国立医薬品食品衛生研究所部長は東京医科歯科大学病理学教室の同門である.十分に話し合い協力しながら作られたせいか,内容に凸凹がなく,いずれの頁も高水準であり,自ら経験された症例から選ばれたであろう写真もきわめて適切である.これは分担執筆者が多過ぎたり,洋書の翻訳だったりする類書とは決定的に違うところである.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.