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はじめに
低侵襲医療への社会的関心を後押しに内視鏡外科は格段の進歩を遂げてきたが,胃癌の手術についてはいまだ普遍的な治療法とはなり得ていない1~3).内視鏡下手術の宿命である操作制限や長い手術時間に見合うだけの有益性が,たとえば大腸切除などに比べて見出しがたいためと思われる.しかし,郭清や切除範囲を手控えた縮小手術を行う場合,傷を大きく開ける従来の開腹法は,術後疼痛が小さく整容性も高い内視鏡下手術と比べて過侵襲の感が否めないのも事実である4,5).
ところで,内視鏡下手術は道具に依存する部分が多いため,必然的にその進歩は医療器材に目覚しい技術革新をもたらした.たとえば超音波凝固切開装置(以下,LCS)や柄付きlinear staplerは組織の切離や腹腔内の深い位置での消化管吻合をより簡便で安全なものにしたし,独特の長い形状に作られた鉗子やトロッカーは手指に代わって臓器を把持することで遠隔操作による術野の提示を可能にした.これらの新しい道具の出現は伝統的な手術基本手技を重んじる外科医には歓迎されないかもしれないが,むしろその性能を享受し使い方を工夫すれば,開腹手術もより低侵襲化できる可能性がある.
そこで,われわれは開腹による幽門側胃切除術に2つの内視鏡下手術的要素を取り入れた.1つは鉗子の遠隔操作による視野展開である.郭清や血管処理を行う領域はおよそ胃の四隅に位置し,そのままでは小開腹創から見えにくいが,かと言って一度にすべてを視野に入れる必要もない.そこで,体外から創を各領域の近くに移動したうえで,トロッカーを経由した体内からの鉗子操作によって一領域ずつ創内に誘導する.もう1つは操作の器械化である.通常の操作は使い慣れた剝離鉗子や電気メスを主体に進めるが,主要血管の切除側シーリングや深部組織の切離にはLCSを用いて結紮を省略する.再建も柄付きlinear staplerを用いたRoux-en-Y法により器械化した6).これらの結果,開腹手術でありながら,皮膚切開を腹腔鏡補助下幽門側胃切除(以下,LADG)と比べても遜色ない長さにまで短縮することができた7).
本稿では,このようなコンセプトに基づくトロッカー併用小開腹手術(trocar-assisted minimally incisional surgery:以下,TMS)による幽門側胃切除術を術中写真とイラストで紹介する.
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