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手術中には腹膜から多量の水分が失われるために脱水が少なからず存在する.また,術後数日間は経口摂取が不可能であることも多く,周術期の適切な輸液は治療上不可欠な存在である.周術期の輸液に用いる薬剤の選択や投与量,投与期間については詳細な研究が多岐にわたって行われている.また,手術手技の向上,内視鏡手術の普及,自動縫合器の発達,電気メスの性能の向上,様々な止血機器の発達により,外科手術の出血量も減少傾向にある.このため,健常な患者であれば,多くの施設ですでに完成されているクリニカルパスに従った輸液療法で大きな問題は生じないであろう.
また,感染対策も本邦においても全国的なサーベイランスが確立し,CDCのガイドラインを基にした日本独自の感染対策ガイドラインも完成,啓蒙活動も活発であることから,広く普及している.推奨される抗菌薬の使用方法や創縫合管理法など,近年エビデンスに基づく情報で大きく変化しながら徐々に統一化されたクリニカルパスの導入により感染症の減少に大きく寄与している.しかし,高齢患者の急激な増加と,手術適応の拡大,生活習慣病の増加に伴い,様々な合併症を有する患者の手術も増加しており,これらの患者はクリニカルパスに従った画一的な輸液療法では不十分なばかりでなく,新たな合併症を招く危険性すらも生じてくる.特に,クリニカルパスで研修された若い先生方にとってはこのような合併症を有する患者の周術期管理には難渋されることも多いことと思われる.そして,このような合併症を有する患者は通院期間・入院期間が長く,また,様々な薬剤によって治療を受けており,外因性感染の危険にさらされる機会が増加し,また原疾患そのものによる感染防御能低下により,術後感染のハイリスク患者となっている.患者の術前合併症,既往歴,投与薬剤によって輸液の内容や感染対策も異なる.つまり患者個々の状態の把握とそれぞれの病態にあった輸液と感染対策を行うことが術後合併症を減少し,良好な外科的治療成績をあげるポイントとなる.
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