外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 19
胃癌手術に網囊切除は有用か
白石 憲男
1
Norio Shiraishi
1
1大分大学医学部第1外科
pp.1034-1035
発行日 2005年8月20日
Published Date 2005/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407100164
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わが国で出版されている手術書を開くと,「胃癌の手術」の項に網囊切除の手技が掲載されている.研修医の頃,私も先輩から網囊切除は標準的な手術手技の1つだと教わってきた.
網囊は胃の後面に接する腹膜で構成され,Winslow孔に開口している.網囊切除は,横行結腸間膜の前面にある腹膜を膵臓や後腹膜を被覆する腹膜とともに切除する術式である.最近出版された多くの書物にも,「癌が胃後壁に露出しているときには網囊切除を行うことが手技上のポイントである」と強調している.その理論的根拠は,漿膜浸潤を認める胃癌の場合,網囊内に微小な腹膜転移が生じている可能性があるためというものである.2004年4月に改定された胃癌治療ガイドラインには,網囊切除を省略する手術を「縮小手術」と位置づけ,その適応を漿膜浸潤のない症例とした1).しかし,「S(+)症例を含めて網囊切除の延命効果を示すエビデンスはない」とも記載している.面白いことに,有名な外国の教科書の索引を調べてみても網囊切除に対応する言葉は見つからない.もちろん,1回のRCTもない.
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