学会印象記
第12回国際神経病理学会議—神経病理学の未来へ向けて
田中 順一
1
1東京慈恵会医科大学・神経病理学
pp.34
発行日 1995年1月1日
Published Date 1995/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406900732
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神経病理学の歴史は臨床神経学の歴史でもある。それは前世紀の半ば,偉大な臨床神経学者であったシャルコーが種々な神経疾患の解剖所見を念入りに調べ,臨床徴候と病巣局在の対比を行ったことに端を発する。その後,アルツハイマーは組織病変を細胞レベルまで掘り下げ,今日の学問体系を確立した。過去50年間にわたって,この組織診断を中心とする臨床神経病理学的な研究が主流であった。近年,分子生物学や遺伝子工学の急速な発展とともに神経疾患の原因が分子レベルで解明されるに至り,その治療は夢でなくなった。同時に臨床検査や画像解析の進歩は患者の生前診断を可能にし,もはや病理解剖は無用であるという極論さえ囁かれている。
1994年9月18日から23日までカナダのトロントで開かれた第12回国際神経病理学会議では,新しい神経病理学への脱皮を目指して5題のシンポジウムが組まれた。それらのテーマは「神経細胞の成長と発達,その展望」,「細胞周期の調整と悪性変化」,「ペルオキシゾームとその障害」,「神経系の細胞死」および「神経系の変性と再生」であり,いずれも従来の神経病理学の領域を越えた若い神経科学者の活躍が目立った。このほか,20題のワークショップがあり,なかでも神経生物学に関連するトピックが目を引いた。一般演題は789題であったが,すべてがポスター展示で行われ,わが国からの発表は193題(全体の25.8%)を占めた。
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