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I.はじめに
近年老年期にみられる痴呆,特にアルツハイマー型痴呆(AD)の生物学的指標あるいは画像診断など診断技術に関して多大な進歩が認められることは衆目の一致する点であろう。また,その治療法についても多くの試みがなされている。しかし,このような痴呆の臨床経過や治療効果の判定ではそれぞれの研究者が各個に種々の測度を用いているのが現状であり,結果を相互に比較することが困難なことが多い。現在,ADの臨床評価に関しては米国国立老化研究所(NIA)がスポンサーとなりCERAD(Consortium to Establish aRegistry of Alzheimer’s Disease)と呼ばれる国際的な研究組織が作られ標準的な評価方法の確立を目的として精力的に研究が進められている。
本稿のテーマの痴呆の客観的評価法であるが,精神生理学的あるいは精神薬理学的指標を用いて痴呆を間接的に捉えようとする場合を除き,痴呆に認められる精神症状自体を測定する場合には,他の身体疾患の場合とは異なり異常の有無やその程度を目に見える客観的な,例えば臨床検査値として表わすことができない。したがって,後で触れるように質問法を用いるにしろ,観察法を使うにしろ,本人の行動の変化を中心とした評定にならざるを得ない。このような評定での客観性とは何を指標として示すことができるのであろうか。評定方法に十分な信頼性と妥当性があることが客観的な評価ということができよう。つまり,誰がいつどこで評定したとしても同一の結果が得られ,測定しようとするものが的確に測定できなければならない。ここでは,信頼性と妥当性に影響を与える要因およびそれらの検定方法についての詳細は省き,わが国でも用いられることの多い,すでに信頼性と妥当性の検討が行われているいくつかの痴呆の評価法を,使い方も含めて紹介する。これらのほとんどは痴呆の中でもADを対象としたものである。
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