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編集後記
金光 晟
pp.837
発行日 1989年8月1日
Published Date 1989/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406206379
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第41巻第8号をおとどけする。本号には総説として東大脳研解剖・石塚典生氏から「海馬皮質の構造と問題点」を頂いた。最近,海馬は記憶の座として話題にされるが,線維結合については不明な点が多い。ご承知のように神経系は伝導路の複合体といわれ,伝導路所見は神経系の機能,研究や臨床症状解析にとって基礎的資料となり,また比較神経解剖学では相同判定の主要な指標とされる。石塚氏の総説では伝導路所見が皮質層の相同判定に重要な役割を果していることがお解り頂けると思う。
古くからある解剖学名にはその命名の由来が不明瞭なものがあり,海馬もその一つである。側脳室下角底の内側寄りにみられる高まりには海馬足pes hippocampiの名があり,簡単に海馬hippocampusとよばれる。一般に,海馬はイタリアの解剖学者Arantio (1564)がギリシャ神話にある架空動物の前脚を連想して命名したとされるようである。この神話の動物は海神が乗る車をひき,前半身が馬で,後半身が怪魚の形であるという。さらに,海馬足の側頭極端には数本の切れ込みがあって,この切れ込みの間の小さな高まりには海馬趾digitatio-nes hippocampiの名称がある。ところがHyrtl (1880)によると架空の海馬の前脚には足指はなく,蹄で終るという。しかもArantioが命名したのはhippopotamusつまり実在の河馬であるという。これは短かい足指をもっ。一方,Meyer (1971)はhippopotamusの用語を使用したのはMayer (1779)としている。ちなみにタツノオトシゴの学名もhippocampusである。
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