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編集後記
金光 晟
pp.595
発行日 1988年6月1日
Published Date 1988/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406206128
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第40巻第6号をおとどけする。本号は平山惠造教授から「Silent area (無症候域)の症候学」を総説として頂いた。
大脳皮質だけではなく中枢神経系には先天的欠損,あるいは実験ないし治療の目的で損傷を与えてもさしたる症状を示さない箇処が方々にあるらしい。他人の介添無しに日常生活を送る程度ならば大脳半球の一側がなくても大丈夫のようである。17歳で左側半球摘除術を受けて勤め人として社会生活を送り31歳で死亡した男性の脳標本を新潟大学の生田教授に見せて頂いたことがある。私共が学生の頃には先天的に脳梁が欠損していても日常生活に支障はないと聞かされたように思う。検査方法がまだないということなのであろう。1960年代後半頃からSperryなどにより脳梁の機能が研究されて左右大脳半球の機能分業が指摘されるようになった。このような研究分野では新しい検査方法の開発とともに被験者の供述(Angabe)が重要な役割を演じるようである。一般に動物実験では運動系は筋収縮や腺分泌を指標として研究が進められるが,感覚系は供述がえられない動物ではいささか厄介であるらしい。視床VLに手術を受けた患者が,それまで新聞を読みながらコーヒーを飲んでいたのが出来なくなったという話を随分以前に読んだことがある。個々の動作は別個には出来ても二つ同時には出来なくなったということなのであろう。運動系の解析にも供述がものをいう例として記憶に残っている。
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