- 有料閲覧
- 文献概要
昨年11月に台湾神経学会の招待を受けて台北へ,また本年2月に韓国脳神経外科学会出席のためソウルを訪れる機会を得た。台湾の台北大学附属病院や高雄医学院は,共に新しい病院で立派な施設が完成していた。また韓国脳神経外科学会の会場はYonsei大学の講堂で行われたが,きれいな会場でビデオ装置が常設されており視聴覚教育の充実を感じさせた。私がいつも講義をしている薄暗く,何とも汚ない臨床講堂と比較して,恥かしい思いをしたのが実感であった。少なくとも私の目には,台湾も韓国も共に大学環境や教育に,それぞれの国で出来る限りの最高の努力をしているように見えるし,この勢いで両国が伸びていくと,21世紀には素晴しく水準の高い国になるのではないかと感じた。
両国の医師は,日本は技術が進んでいて,きれいな国だと褒めて下さるが,私の大学の施設を思い出すと何とも答えようもない。日本では,ホテルも,企業のオフィスも,また続々と威容を誇る進学塾も皆立派なビルで快適な環境にある所が多い。しかし一方で,多くの中学,高校,大学,特に公立の教育の場は旧態依然の貧しさである。人の心も環境に左右されるところが大きい。美しい静かな環境でしか優れた研究は生まれないとは言わないが,切角一生懸命勉強して大学に入ってきた若い人達が,もっと良い,美しい環境で勉学に勤しみ,落ちついてものを考える余裕を持てるようにしなければならないと思う。日本の教育には何か欠けている所が多過ぎる。わが国の教育が優れているから,中学や高校生の数学の点は世界一だと新聞にも報道されているが,果してそれが良い教育だと思う人がどれだけいることであろうか。もっと教えることを少なくして,人格豊かな,考える人間を育てることの方が大切なのではないだろうか。
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.