Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
失行症とは「運動執行器官に異常がないのに目的に沿う運動が遂行出来ない状態」(Liepmann, 1920)と定義されている。この場合の「運動」には留保条件があって,生得的運動は除外されている。生得的運動能力の上に経験によって積み上げられ,習熟した運動がその対象である。したがって,たとえば開眼や閉眼,歩行あるいは呼吸のごとき,それしかない運動は失行の対象とする運動ではない。対象とするのはそれら,生得の運動能力の上に積み上げられてきたものである。たとえば,指の屈伸や手の把握は生得的な運動であるが,指で小さなパチンコ玉をつまみげるのは生得的な能力の上に,知らず知らずの永年の熟練によって積み上げられた運動である。手が獲得した多くの可能な動きのうちから任意に選択されたひとつの動きである。前者の障害は麻痺や原始反射など運動執行器官の障害に属し,後者の障害は失行に属する。また,「目的に沿う」運動とは,従来,意図的つまり自分がやろうという意志を持って行おうとする運動,と理解されてきたが,そのような漠然たる自発的行為をいうのではなく,言語命令,模倣命令,物品使用命令の三種の特定の刺激に応じて目標行動を遂行するという意味である。刺激を特定しない限り失行の定義は困難である(Geschwind, 1965)。
このようにして定義される失行には(1)肢節運動失行(Limbkinetic Apraxia;LKA),(2)観念運動失行(Ideo—motor Apraxia:IMA),(3)観念失行(IdeationalApraxia:IA)の三種が分離されている(Liepmann,1908)。本論で取り上げるのはこの三型のいわゆる古典運動失行についての研究の現況であり,着衣失行,構成失行については紙幅の都合上触れない。またLKAについては別に検討する機会があった(山鳥,1985a)ので省略する。
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.