Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
近年の神経心理学に著しい趨勢は,一方において各個症状(群)又は障害の構造のより立入った分析が脳損傷部位との関連で強力に続けられると共に,他方では各脳疾患を対象として,病因に特異的な神経心理学的特徴を検討して,場合によってはその医学診断学的価値を明確にしようとする試み(殊に痴呆を来す疾患,脳外傷,アルコール脳症,多発性硬化症,てんかんなど)が各方面で開始されている。前者の研究については既に度々触れる機会(浜中1977/80/81/83/84)があったので,今回は後者のテーマから現代の老齢化社会において重要な意味をもつ痴呆の失語学的側面について論じることとしたい。
ところで痴呆患者の「コミューニケイション機能の性質を記述するデータは乏しく」(Bayles et al, 1982),「1980年代においてすら老齢化と痴呆における言語の研究は稀である」(Obler et al, 1985)といわれ,「言語症状に焦点を当て,系統的かつ詳細に記述しようとする試みはほとんど行われていなかった」(綿森ら1983)とすら指摘されるが,この点についてまず注意をうながす必要があるのは,これらの研究者は1960年以前の文献検討をほとんど試みていないことである。僅かにOblerらのみにSéglas (1892)をはじめとする19世紀の研究再評価へのきざしがみられはするが,それとて僅かにMartini,Francis, Garnier, Tanziの名に言及したにとどまる。そこでここではまず,このような誤解の根拠なきことを示すために,痴呆—と精神疾患(Kraepelin以前に限定)—にみられる言語障害の研究史を一瞥しておこう(Table 1,2)。詳細は別稿(浜中1986)を参照されたいが,これによって,後述する主として臨床例にもとつく近年の研究成果が,1960年までに主に剖検例について集積された知見を,大筋において再確認しているにすぎない場合もあることも理解されるであろう。
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.