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本書の編者も監訳者も序文で触れている通り,かつては神経学という学問は詳細な解剖学的知識に裏づけされた難解な症候学から成り立っており,日常診療的な便宜さは軽視されがちであった。実際に有効な治療法のない疾患が多く,また用いるべき薬剤の種類が少なかったためも大きい。しかし最近に至って神経学自身の学問的進歩にともなう新しい薬物治療の発展や,臨床医学全般におけるプライマリイケアの重視という動きに呼応して神経疾患の治療にも日常性,簡便性,分りやすさなどの色彩が求められはじめた。そうした動きの中で本書の第1版は貴重な役割を果してきたわけであるが,更にそれに加えて最新の治療の知識を補強した第2版は臨床神経に従事ずる者にとって専門家にも初心者にもきわめて心強い伴侶である。
本書は「治療マニュアル」とあるが,正しい治療には正しい診断が前提となるのは当然のことで,副題にも「診断の要点と治療の実際」とある通り,治療についてのみでなく症候や病態生理の解説にもかなりの紙面が割かれており,項目によってはむしろそちらの方の頁数が多い部分もある。本書の前約3分の1は第1部として意識障害,頭痛,めまいなどの代表的な神経症状を,後約3分の2は第2部として感染症,脳卒中,運動異常疾患などに分類した個個の神経疾患を対象として,それぞれについて定義,原因,特徴的な症状,所見,必要な検査と診断法が簡潔にまとめられ,次いで治療が述べられているが,これは初心者にとって特に便利なことであると考えられる。また,治療の内容については最新の薬剤に至るまで具体的な用法,用量をくわしく取り上げ,副作用についても充分の記載がある。神経の専門医にとっても,すべての薬剤の使用法を正しく身につけていることは心ずしも容易ではないので,本書はそうした意味で専門家にも必要な書であると思われる。
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