Japanese
English
総説
記憶の神経心理学
Neuropsychology of Memory
浜中 淑彦
1
Toshihiko Hamanaka
1
1京都大学医学部精神神経科
1Department of Neuropsychiatry, Faculty of Medicine, Kyoto University
pp.727-752
発行日 1985年8月1日
Published Date 1985/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205556
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序言
19世紀の生理学者E. Hering (1870)やR. Semon(1904)のごとく,記憶が人間や高等動物にとどまらず,すべての有機的過程,場合によっては無機体の特性ですらあると主張するほど話を拡げるつもりでなくとも,人間の心的活動ないし行動にはすべて何らかの意味で「記憶」が関与していると考えられぬことはなく,従ってすべての行動を「記憶」の視点から論じることも—それがどの程度意義あることか否かはひとまずさておき—不可能ではない。このような発想こそ,近年の「記憶」とその障害をめぐる神経心理学的研究の動向を強く規定している考え方に他ならず,その結果,一方においては神経心理学の文献に登場する「記憶」の概念は著しく拡張されると共に,他方ではその細分化fractionation(Baddeley 1982)が推進され,これに基づいて莫大な数の個別的研究が産生されている。その結果,「記憶」とその障害の諸側面と細部に関して容易に展望を許さない数の知見が集積され,「記憶」と他の心的活動との関連が一段と明らかにされたのは大いに評価すべきであろうが,時には数10世紀来の古人の深い洞察と—場合によっては臨床的常識—を,実証科学の物々しい道具立てを振りまわして再確認しているに過ぎぬ感もなきにしもあらずである。以下,このような研究の流れを理解する上で欠くことのできない現代の認知心理学cognitive psychologyと神経心理学の相互交流から筆をすすめようと思うが,紙幅の関係でいくつかの重要なテーマ(記憶障害の検査法と訓練,一過性全健忘など)は割愛せざるを得ないであろう。
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