Japanese
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特集 視覚失認
相貌失認の神経心理学—その多様性と物体失認との対比
Neuropsychologie der Prosopagnosie: Zur Mannigfaltigkeit des prosopagnostischen Syndroms und Gegensätzlichkeit zur Objektagnosie
浜中 淑彦
1
Toshihiko Hamanaka
1
1京都大学医学部精神神経科
1Psychiatrische u. Nervenklinik der Universität Kyoto
pp.399-414
発行日 1982年4月15日
Published Date 1982/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203404
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Ⅰ.相貌失認の研究史
Bodamer(1947)によれば,相貌失認と同時に視覚失認症状への最古の言及は,発疹チフスによると思われる脳炎の急性期がすぎた後に家人を認知出来なかった患者を記述した古代ギリシャの史家Thukydides(前5C)に見出されるといわれるが,臨床的に詳しく観察した最初の記載例はWilbrand(1887)によって引用されたイタリアの眼科医Quaglino(1867)の報告であろう:「54歳の男子,心疾患につづく脳卒中発作に罹患。意識回復後,完全な盲と左側麻痺がみられた。片麻痺は緩徐に回復,視力も徐々に改善した。1年後,片麻痺は消失。当時の視力はすべての距離について問題なく,小さな文字もよく読むことが出来,患者の供述によれば木の梢の先端にとまっている雀もよく見えたという。しかし中心視野の左方外側方ははっきり見ることが出来ず(左方不完全半盲),患者にとって不審なことに,病床から起き上ると,すべての人の相貌が艶なく色褪せて見え,事実白黒以外の色の区別がつかなかった。今では又,すべての客体が何であるかを知っており,又認識することも出来たにも拘らず,相貌や家の正面など,一言でいえば客体の形態や外形を想起する能力が失われていた。」(Wilbrandのドイツ語訳)50)
剖検例ではないので病変部位の詳細は知るべくもないが,少なくとも右後頭葉を含む脳梗塞が疑われ,臨床的には左同名半盲,右色彩半盲と共に相貌失認,地誌的障害,視覚的記憶障害の存在が推定されるが,物体失認に先立つ記載であることが注目される。
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