随想
両極性とバランス
祖父江 逸郎
1,2
1名古屋大学
2国立療養所中部病院
pp.714-715
発行日 1985年7月1日
Published Date 1985/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205553
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二つの極があるということは真中があるということである。化学天秤には二つの皿があり,両方で釣り合っておれば,指示針は丁度真中を指し示し,どちらにも片寄らない。バランスがとれているのである。精密なものでは,極く微量の差も検出可能である。二つの力が働いた場合には,その間の調整は微妙で,僅かな力関係によって両者間のバランスは崩れ,いずれかの優勢が目立つ。
国際情勢の中でも,よく東西の緊張が問題にされる。両陣営の示すいろいろの意味での勢力関係が複雑に働いて両者間の特異な緊張状態を作り出している。緊張を保ちながら,ある意味ではバランスがとられているともいえる。国際間のバランスには様々のものがからみ合って働いていることによってある種のバランスがとれているのであるが,時にこのバランスはいずれかに傾くことになり,極端な状況が醸し出されると戦争というような非常手段に訴えることがおこりうる。その結果として,また何らかの形でのバランスが成立するわけである。これまでの永い国際間の歴史の中では,こうしたことが幾度となく繰り返されてきた。国際間の情況では,時には二極間だけでなく,三極とか,四極,時には多極的な情勢が形成されることもあるが,こうしたことは極めて異常な事態であろう。こうした独特な関係の中にバランスがとれているという場合もあろう。しかし何といっても基本にあるものは二極間関係ということができよう。
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