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I.はじめに—Multiple system atrophy とその近縁概念
Shy-Drager症候群(SDS),オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),線条体黒質変性症(SND)の3変性性疾患は,脊髄中間質外側核を中心とする自律神経系と,オリーブ橋小脳の小脳系と,線条体黒質の錐体外路系とが病理学的に程度の差はあるものの共通して障害を受けることから,"multiple system atrophy (MSA,多系統萎縮症)"として病理学的観点から一括して考える立場がある5,18)。しかし,MSAはGrahamとOppenheimer18)も述べているようにあくまで病理学的総括的名称(general term)であり,それぞれ個々の疾患の病像解析,鑑別診断のためには,その病理学的分析のみならず,経過,症状の臨床的分析と,また,特に自律神経系の機能的分析による総合評価が重要である。
現在までMSAの小脳系と錐体外路系に関しては,著者らの一人(平山)ら10,24)により臨床的ないし臨床病理学的検討が詳細になされており,小脳症状と錐体外路症状の出現順序,強弱,経過などと両系の病理学的所見の軽重によりOPCAとSNDの臨床的鑑別,SDSにおける臨床病型の分類などが検討されてきた。しかし,MSAにおける自律神経障害の臨床病理学的並びに機能的検討は,SDSでは自律神経症状が中核となるためかなりなされているものの,OPCAでは一部で機能的検討が行なわれているのみで13,17,34,35)SDSとの比較においてその自律神経障害の種類,程度,障害レベルなどを系統的に比校検討したものは少なく10,11,25),その内容も十分でない。さらにSNDではほとんど検討されておらず,自律神経症状がどの程度に出現するかも明らかでない。また,MSAにおける末梢(節後)性自律神経障害の検討はその治療薬(特に起立性低血圧に対する薬物)の選定にとって重要と考えられるが,一部SDSでの検討4,15,38)を除きほとんどなされていない。すなわちMSAにおける自律神経障害の検討はSDSを除き系統的にほとんどなされてこなかったが,これは一つにはOPCA,SNDにおける自律神経障害がそれぞれ小脳系障害,錐体外路系障害に比し主要な障害ではないため着目されにくかったことや,一つにはMSAという概念が元来後述するprogressive autonomic failure (PAF)の臨床病理学的分析の中で,自律神経系病変に付随するオリーブ橋小脳病変と線条体黒質病変を合わせたもの—すなわち,OPCAとSND—を包括するものとして使われ5,18),それ自体,自律神経系病変は包括していない感があったためと思われる。
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