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あとがき
大橋 博司
1
1京大
pp.1223
発行日 1982年12月1日
Published Date 1982/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205049
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このごろ「右脳」「左脳」談議がかまびすしい。通俗書や週刊誌にまで「右脳人間」とか「左脳人間」などという珍妙な言葉がとび出して来たりして,いささかびつくりさせられる。たしかにSperryのsplit-brainに関する見事な業蹟が神経心理学界に与えた衝撃は大きかつたし,またこれに関連して各国の研究者たちがhemispheric spe—cialization, lateralizationに関するさまざまの研究を報告しはじめ,言語をはじめとする種々の高次神経—精神機能と左右大脳半球の相関についておびただしい知見が集積されつつある。そのような数多くの,貴重な,ときには相反する研究結果の一部が,妙に単純化されたり,誇張されたりしながら,ゆがめられた形で広められて行くのを一般書店の店頭でながめると,眉もひそめたくなり,何かやりきれない,わびしい気分にもなる。
もちろん知識の普及は大いに結構であるが,そのためには真に良心的な啓蒙書が必要であり,そのような書物はなかなかに数多くは見出し難い。それはなにも脳の話に限らず,他の専門領域でも同じことであろうか。
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