- 有料閲覧
- 文献概要
我が国でプライマリ・ケア医学が日野原重明氏により提唱されてから10年,日本プライマリ・ケア学会が渡辺淳会長のもとに発足して4年になる。その間プライマリ・ケアが何であるかについては,立場を異にする人々が各人各様に解釈して来た。そのために識者のなかには日本プライマリ・ケア学会が統一見解に基づく定義を与えてほしいと言つている人もある。この点についてプライマリ・ケアの先進国である米国では,数年前にNational Academy ofSciencesがブライマリ・ケア医学の具備すべき条件を設定し,この古くて新しい医療の方向づけをした。すなわち"求められればいつでも受け入れ(accesibility),どのような病気の患者でも選り好みせず診療して自洞分の能力の及ぶ限り適切な処置および指導をし(comprehensiveness),一応よくなつてからもひき続き,かかりつけの医師として健康を管理してやり(continuity),決して独善的にならずその道の専門医に紹介してその意見と診療を求めてそれを参考にし(co-ordination),しかも患者に自分の病気をよくわからせ,その家族のこと,経済状態などまでも考慮して,患者に最もよいと思われるケアをする(accountability)のがpri—mary caremedicineである"という。川崎医科大学は昨1981年4月にプライマリ・ケアの教室と診療部門を開設したが,これを"綜合臨床医学教室"および"綜合診療部"と呼ぶことにした。プライマリ・ケアの用語混乱を避けるためであつた。このたび日野原・岡安・岩崎・植村の四氏の編集により"プライマリ・ケア医学—包括医療実践のために"(B5版本文880頁)が医学書院から刊行されたがこれもまたこれらの諸氏がプライマリ・ケアの特質を明確にし,我が国にこの種の医療を普及させようとする意図に基づくものと信ずる。その証拠に,この書物の内容は6編に分割されているが,その冒頭の第Ⅰ編:プライマリ・ケアの意義とその理解において編集者が自ら筆をとりプライマリ・ケアの解説をしておられる。私は興味をもつてこの編を通読したが,その定義および精神はNational Aca—demy of Sciencesの提唱するものと全く同一であつた。我が国におけるプライマリ・ケアの唱導者でありこの道の権威である四氏にこのようにプライマリ・ケアについて一致した見解を表明していただいたことは,今後この医療についての各人各様の誤解をぬぐい去り,この実践的医療の我が国における発達を促進してくれるものと思われ,まことにうれしいことである。
この書物の第Ⅱ編は,プライマリ・ケアの効果的な進め方と題して種々な患者(不治・致死,小児,思、春期,老人,心身症,精神病,遺伝,感染症などの)へのアプローチを解説している。この種の解説は一般の臨床医学の教科書には見られないものであるが,プライマリ・ケアの医療には不可欠の予備知識である。ここで植村氏が書いておられる"臨床問題解決のための考え方・進め方"には,これまでのPOSによる患者へのアプローチ以上に掘りさげた内容が盛られている。是非読んでいただきたい。
Copyright © 1982, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.