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脊椎疾患に対する外科的治療の近年の進歩は著しい。椎弓切除術や後方固定,前方椎体侵襲は以前から行われていたが,頸部脊椎症性神経根症やミエロパチーの病態が明らかにされ,その重要性が我が国でひろく認識され,その外科的治療が積極的に取り上げられるようになったのは近々20年以内である。ことに頸椎に対する外科的治療の意義が認められるようになったのは10数年来のことである。この意味でこの分野はまだ若い分野である。それだけにこの分野に何十年の経験を有する権威や確立された治療体系が出来上っているわけではなく,日本においても各地のこの分野に専念する若手研究者の研究によって推進されつつある所が大きい。このような若手研究者はこの10年間同好会的な集りを持ち,率直に自分達の経験を持ちより,批判し合って頸椎の外科の正しい発展を目指して来られたが,著者の東京厚生年金病院整形外科部長の森健躬氏も頸椎外科同好会の発足当初よりの有力なメンバーであり,この分野では最も豊富な経験と研究を積んでこられた人である。新しく開拓されつつある分野であるだけにまだまだ未解答の部分や多くの盲点が病因,病態,診断,治療いずれの面にも存在することは否めず,各人各説的な傾向は否めない。
本書を通読して何より感じることは,本書が内外の重要文献を網羅し,諸学説を十分消化した上,自分の経験に基づいた結論で筆を進めておられることであって,新しい分野の書物にあり勝ちな多くの説の紹介に終っていない点が特徴的と思われる。著者がその20年近い経験の1例1例の症例を極めて大切にされ,克明に成績を追求しておられる態度が,本書を異色の書にしている。内容は頸部の解剖から始まり,退行変性の病理,頸部脊椎症の神経障害を伴うものと伴わないものの臨床的分類を頸部脊椎症・椎間板症,神経根症,ミエロパチーに分けて診断し,検査,治療を詳細に論じてあるが,椎骨動脈機能不全や頸椎後靱靱帯骨化症,頸椎外傷,環軌椎間脱臼や頸椎部の腫瘍と炎症についても自験例を提示しつつ,諸家の文献もよく挙げて落すところがない。
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