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この本は,1975年4月17,18の両日,Nottingham大学で開催された"ジスキネジー"と"てんかん"に関する会議の記録を,一冊の本に纒めたものである。この会議は,英国生化学会における神経化学のメンバーが,中心となつて,企画されたといわれ,収録された原稿は,この会議に招かれ,講演した,21人の臨床神経学者,薬理学者,生化学者,生理学者などが,それぞれの専門分野に関する各自の研究を分り易く解説したものであり,最後の総合討論の項では出席者が質問を行ない,指名された講演者がそれに答えるという形式で問題点を浮き彫りにするとともに,将来への展望をも加えて,全体を締括る体裁をとつている。
第1部"ジスキネジー"では,臨床像や病理所見などから説き始め,次第に高度な分子生物学的病因論の解説に至つている。ここで取り上げられている疾患は,舞踏病,捻転ジストニー,アテトーゼ,ミオクローヌス,チックなどの不随意運動を伴う疾患群から,パーキンソン病までの錐体外路疾患全般に渡る広範囲なものであるが,要領よく纒められているため,それ程複雑さを感じさせない。従つて,この種の疾患に余り馴染みのない読者にも,十分理解できるものとなつている。それに続く章では,各種向精神薬のドーパミン受容器に対する薬理学的作用点を論じ,次章の遅発性ジスキネジーへの理解をより深めるように配慮されている。遅発性ジスキネジーは,最近特に臨床的に向精神薬の長期投与と関連して注目を集めているものであるが,本書では,中枢神経系の各種神経伝達物質への向精神薬の効果として触れられたに止まつている点がやや物足りない印象を受ける。しかし実際に,実験的な研究成果がほとんど上つていない理由によるものであろう。ハッチントン舞踏病の章ではGABAやアセチルコリンの代謝への影響が詳細に述べられていて,興味がつきない。ただ全体として,第1部を見ると,ドーパミン系についての記載が主で,その他の神経伝達物質についての記述が乏しいように見受けられた。こうした点は,総合討論でも問題とされているが,錐体外路疾患のモデル動物をほとんど得難い現状では,研究材料はどうしても剖検にたよらざるを得ないという実験的制約によるのかもしれない。
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