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現今,神経内科および脳神経外科においては特発性くも膜下出血(この名称は原因不明であるような印象を与えるため不適当であつて非外傷性くも膜下出血と称すべきである)に対して強い関心が持たれ,これが単なる1所見にすぎなく出血原因疾病をあらゆる検査手段を駆使して探索しなければならないことが常識になつている。しかし出血原因疾病として脳動脈瘤や脳動静脈奇形に注目されすぎている傾向がある。非外傷性くも膜下出血は髄液循環系のいずれの部分の出血によつても発生するのであるから頭蓋内で,しかも脳表面に発生し易い上記の疾病のみに注目してはならないことは当然である。筆者はこの1頁の執筆を依頼された機会に非外傷性くも膜下出血原因病巣の二,三について述べたい。
まず述べたいことは,ご存知でしょうが,くも膜下出血の原因病巣所在として脳室内についても重視すべきことである。従来,脳室内出血は重症であり,しかも急激な経過をとつて死亡すると考えられていた傾向がある。しかして脳室出血には脳室内に出血原因がある一次性脳室出血と脳組織内の出血が脳室へ穿破した二次性脳室出血とがあり,致死的脳室出血は二次性脳室出血か脳室全体を血液がみたした一次性脳室出血すなわちHaemato—cephalus totalisである。一方一次性脳室出血死亡例における出血源については剖検によつて可なりの報告があるにもかかわらず臨床的見地からは一次性脳室出血についてはほとんど関心が払われていない。このように従来一次性脳室出血に対する関心が薄かつたのは出血病巣の臨床的探索が容易でなかつたためである。一次性脳室出血の出血原因巣の所在は脈絡叢および脳室壁であり,これらの部分の腫瘍と血管発育奇形が原因疾病である。これらのうち脈絡叢乳頭腫や髄膜腫などの側脳室内腫瘍は良く知られているが筆者が強調したいことは血管発育奇形からの出血が稀でないことである。すなわち側脳室脈絡叢にも側脳室壁にも血管発育奇形として各種の血管腫や小動静脈奇形が発生する。筆者はこのような症例を5例経験している。これら5例のうち3例は側脳室脈絡叢の血管腫,他の2例は各々脈絡叢および側脳室前頭角壁の小動静脈奇形であつた。これらの脳室内血管発育奇形存在の疑診はくも膜下出血例に対する脳血管写によつて持たれるが,脈絡叢の病巣では主血液供給動脈が前脈絡叢動脈であるか後脈絡叢動脈であるかによつて異り前者では頸動脈写,後者では椎骨動脈写によつて脈絡叢内病巣が造影される。なおこれらの脳血管写において微小焦点X線管球を用いた直接拡大連続脳血管写を行うことによつて微細陰影の確実で詳細な造影をすることができる。しかし脳血管写のみによる確定診断は困難であり,水溶性造影剤を用いた脳室造影を行わねばならない。これによつて得られる造影脳室像は脳室内出血発生後の経過日数によつて異なる。凝血塊およびその変性産物が存在する時はそれらに対応して辺縁不規則な陰影欠損を示しHaematocephalis partialisが造影されることとなる。特に第1図のような花づな状影像は特長的である。一方気脳撮影によつても陰影欠損は造影しうるが陰性造影剤であるために影像が淡く明瞭性を欠き確定診断となりえないことが多い。
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