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Hyperkinésies volitionnellesとは,1838年Garcin1)により「随意運動に際して生ずる舞踏病にも似た強い寄生的不随意運動であり,運動が開始されるやいなや,体肢の行う意図した動作の方向が,急激に乱されてしまうほどのもの」と定義づけられた極めて激しい不随意運動である。このような不随意運動は,すでにCharcot2)やVulpian3)により多発性硬化症に特長的なものとして記載されており,以後しばしば"企図振戦"という用語で表現されてきたものに一致する。しかし"企図振戦"という用語は,症候学的に相異つたいくつかの現象のすべてを含む用語であり,その概念は曖昧で,各々の研究者によつて異つた実体を意味している4)。特にBabinski5)次いでHunt6)以来,企図振戦と小脳病変が関連づけられるようになつてから,特に概念上の混乱が著しい。また多発性硬化症型の不随意運動は"振戦"という名称で呼ぶには余りにも激しすぎる。このようなことから,多発性硬化症型の不随意運動に対しては,Hyperkinésiesvolitionnellesという名称の方が適当であろう。
Hyperkinésies volitionnellesを呈する疾患としては,多発性硬化症の他に,仮性硬化症型の肝レンズ核変性症,Dyssynergia cerebellaris progressivaなどの症候性のものと,特発性のDyskinésie volitionnelle d'atti—tudeが知られていたが,その病態生理学的研究は少く,責任病巣についても種々の見解が提唱され,小脳系を重視するもの6),線状体を重視するもの1),および赤核上部を中心とした下視床域を重視するもの7〜8)の3つの意見が対立したまま今日に至つている。
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