Japanese
English
神経眼科アトラス12
有機燐農薬中毒(慢性例)
Organophosphorous Pesticide Intoxication (Chronic Cases)
石川 哲
1
,
宇尾野 公義
2
,
瀬川 昌也
3
Satoshi Ishikawa
1
,
Kimiyoshi Uono
2
,
Masaya Segawa
3
1北里大学医学部眼科
2都立府中病院
3東京大学医学部小児科
1Ophthalmology, Kitazato University School of Medicine
2Fuchu Hospital
3the Pediatrics Faculty of Medicine, The University of Tokyo
pp.387-391
発行日 1972年4月1日
Published Date 1972/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203088
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有機燐剤は燐を中核とする有機化合物で,発端は毒ガスとして開発されたものが,構造式を変えることにより農薬として広く一般に使用されるようになつたものである。ここに強毒燐として有名なエチルパラチオン①と,それより低毒とされるマラソン②の構造式を記す。これらは燐を中核として,アルキル,芳香環またはカルボキシエステル,SまたはOがついた形をとっている1)。
さてこれら有機燐農薬(以下(P)と略)の中毒として急性中毒はパラチオンは本邦では特に有名で,昭和26年頃から盛んに報告されている2)。その主な症状は強烈なムスカリンまたはニコチン作用で,①副交感神経刺激症状②交感神経刺激症状③骨格筋症状④中枢神経作用を主として,血液では,⑤特に血清のコリンエステラーゼ値が低下することが知られていた。さて有機燐剤による亜急性または慢性中毒の代表は,1930年頃2万人以上発生したと言われる"Jamaica ginger palsy(Jake palsy)"…本邦のSMONと類似する…が有名である2)4)。本症は清涼飲料に混入した"Jamaicaginger"に含まれていた"trio—rtho-cresylphosphate (TOCP)"による中毒で構造式はやはり有機燐で特に慢性中毒では,脊髄前根,錐体路,后索が強くおかされ,腹部症状と共に主として末梢の運動知覚神経が強く障害され,"foot drop paralysis"をきたす疾患として知られている。TOCPも偽コリンエステラーゼ(p-chE)阻害が主で5)真コリンエステラーゼ(t-chE)の分布する中枢神経および眼にはほとんど障害を惹起しないことがよく知られている。
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