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A.培養神経組織の組織化学
組織ないし細胞に関するin situの化学,すなわち局所化学topographic chemistryが,組織のレベルから細胞あるいは細胞下レベルになろうとしていた時期に,培養細胞の果した役割は大きい。すなわち,主に技術的な困難性により,今日ほど,電子顕微鏡による細胞化学が一般化されていなかった時代に,光学顕微鏡を用い,諸種の活性物質あるいは生化学的機能の細胞内局在性を知ろうとした場合,通常の切片標本では,細胞が相互にcompactにつまつているので,反応の細胞内局在性を判定するのに困難を感ずることが多かつた。その際に,細胞質が非常に扁平化flattenedしている培養細胞は,反応物質の細胞内局在性を知る上にきわめて好材料であつたのである。今日,電子顕微鏡による細胞化学の分野においても,目的如何によつては,培養細胞を用いる方が,問題解決に有利な場合もある。
光学顕微鏡レベルでの組織・細胞化学の中でも,培養細胞がlysosome (リゾゾームあるいはライソゾーム)に関する諸問題解明に果した功績は特に大きいようである。すなわち,超生体染色による中性赤液胞ないし顆粒がlysosomeに相当するものであることが初めて報告されたのは,神経組織由来の培養細胞を用いた研究によるものであり(Ogawa et al., 1960, 1961),この事実は,後に,培養細胞を用いた電顕的細胞化学的術式により確認されている(Elliott et al,. 1964)。さらに,最近のprimary Iysosome (第一次リゾゾーム)の慨念も培養細胞(白血球)による所見を基にして発展している(Hirsch and Cohn, 1964)。
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