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Eccles教授は4月2日大阪において「中枢神経系におけるシナプス前抑制とシナプス後抑制」と題し,脊髄において運動神経細胞に種々の求心線維から集中するインパルスが,シナプス前抑制とシナプス後抑制の二つの異なる抑制過程を惹起し,これら抑制過程は脊髄反射機構においてそれぞれ異なる綜合作用を発現することを述べた。この講演原稿はすでに生体の科学(第14巻62〜76頁)に載せられている。これにつづき4月13日東京で行なわれた講演では「シナプス前抑制」と題し,この抑制過程の起こる実際の機序についての知見がまとめて述べられた。以下その講演要旨を紹介する。挿図は講演中示されたスライドを筆者が適当に配列したものであることをおことわりしておく(伊藤正男記)。
シナプス前抑制なる現象は1957年FrankおよびFuortesにより初めて気づかれたものであるが,この過程は,猫の脊髄運動神経細胞に単シナプス結合を介して惹起される興奮過程が,シナプス前において,他の経路より送られたインパルスのために抑制されるものである。第1図Aに示すように,gastrocnemius-soleus筋よりでるIa群の求心性衝撃により発生する単シナプス反射を前根で誘導しておき,これに先行してposterior biceps-semitendinosus筋よりでるI群の求心性線維に300c/sの頻度で4発の条件刺激を与えると単シナプス反射はいちじるしく抑制され,グラフに示すようにこの抑制は300msec以上にもおよぶ。運動神経細胞より細胞内誘導を行なつてみると,この条件刺激によつては細胞の膜には何の変化も起こらぬが,単シナプス径路より発生する興奮性シナプス電位(EPSP)の大きさが,反射抑制とほぼ同様の時間経過で20〜30%減少するのがわかる(第1図B)。すなわちシナプス前抑制はシナプスより分泌させる伝達物質の量を減少させるのがその本質的な過程であり,運動神経細胞の膜電位を変化させるシナプス後抑制とはまつたくその機序を異にする。
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