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〔144〕頭蓋咽頭管腫の全摘について
クラニオフアリンギオームは,その発生部位が頭蓋底深部であり,又附近にはその損傷によつて直接生命,或いは生活に重大な影響を与へる多くの器官が存在し,その全摘出は技術的に困難であり,また例え全摘ができたとしても,その後の内分泌系統の失調により,患者は重大事態に陥つていたのである。桂外科教室では最近5例にその全摘出を試み,中1例は術後3カ月目に失つたが他の4例は術後意識喪失,或いは尿崩症による脱水症などを合併したものもあるが全例元気に退院し,現在有意の生活を行なつている。手術接近法は側頭部を開き,中頭蓋底 または中及び前頭蓋底より接近する方法をとつているが,その侵入側決定はきわめて重大であり,各種の検査によつて慎重に決めなければならない。?腫壁を剥離する場合,附近脳実質を腫瘍側につけて剥離を進めてゆく誤まりを犯しがちであるが,充分注意しなければならない。実質性のものは少しずつかじり,剥離してゆき全剔してゆく,しかし全く硬いものや癒着の強い,嚢腫壁の全く薄いものでは全摘は不可能と考えられる。低温麻酔で間脳附近の腫瘍を摘出するときは,手術という大きなストレスに対して反応を少なくさせ,有効なものといえるが復温後の反応までは抑える事ができない。このとき間脳附近の腫瘍ではこの反応に応じ得るだけの副腎皮質機能がないので,重篤になる。これを補うためにコーチゾンを充分に投与しなければならない。全摘出の後副腎,甲状腺,性腺ホルモン及び血清電解質の消長は興味ある問題である。170HCS,17KSは全般的に低下しているが,エストロゲンは正常或いは少し高めの傾向であつた。甲状腺機能は一般に低目ではあつたもののほぼ正常範囲であつた。しかし中には基礎代謝がかなり低下しているものもみられた。血清電解質は一般に低めではあつたがCaの低値を除いてはほとんど正常範囲内であつた。その他尿崩症に対する療法についてふれた。
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