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「脳浮腫・血液脳関門」についてのシンポジアムはまず三つの主講演を京都大学の石井氏,岡山大学の西本氏,新潟大学の深井氏の三氏にお願いいたしました。
お話しを拝聴しますと,この問題は結局脳血管・血液関門の解剖学的・形態学的の問題とこれに関連した病態生理学的脳浮腫の問題,さらにそれに対する薬物療法,特に尿素液の応用という三つの課題にまとまると思います。この三つの主題に対して東京医大の三輪氏,鳥取大学の斉藤氏,札幌医大の宮崎氏からそれぞれ招待討論をお願いしました。結局最初石井氏の述べられたように血液脳関門を特定の解剖学的単位による“面”と考えることはまちがいで,内皮細胞,基底膜,グリアの三者が相よつて形成する血管透過性の一様式と理解すべきであるということは三輪氏の討論中にもうかがわれ電子顕微鏡的検索の発展とともに血液脳関門の一面がかなり詳細に明らかにされてきまして従来の毛細血管壁説というような問題はしだいに否定され,神経膠細胞自身にいろいろな特性のあることが注目されてきたようであります。次に急性脳圧亢進症の治療対策については主講演者,招待討論者の方々からも興味あるお話をうかがいましたが,これらに対して追加討論として主として脳圧降下剤の問題にうつり,その前に生理学的立場から日大生理の遠藤氏から,いろいろな薬剤の脳脊髄液への移行の問題について討論を願いました。この問題につきましては東京医大の木村氏日大小児科の関氏,山口医大の東氏などから種々の薬剤療法に関連して追加をいただきました。そのあと京都府立医大の萩原氏,熊本大学の長谷川氏,後藤氏の三人の方から討論があり,予定された講演を全部終了しましたが,その後短時間ではありましたが全般にわたつての討議にうつりました。尿素の臨床的効果につきましては非手術時でも頭痛・悪心・嗜眠の状態に用いられましようが特に開頭術中の応用は手術の進行を容易ならしめきわめて効果的であるということは多くの人の一致した意見でありました。しかし副作用として注入時の血管痛,注入場所の血管硬結,血栓形成などは考慮すべき点として指摘されました。腎機能障害のあるときは禁忌と考えられます。従つて尿素の適応症として挙げられますものは術前の応用として脳圧亢進症状の是正,開頭術の不能の場合などがあり,それに開頭術中の応用は前述したとうりであり,また術後処置としての応用はだいたい2〜3月連日投与が考えられました。いずれにしろ尿素の効果持続が比較的短時間であることは今後その延長策に対しなんらかの方法がとられることが期待されたわけであります。
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