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あとがき
A
pp.579
発行日 1960年6月1日
Published Date 1960/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200947
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- 文献概要
医療制度のあり方が問題になつている矢先に武見太郎氏の目本医師会会長3選が決つた。氏の3選については賛否両論があろうが,現在の医療制度のあり方に対して尊い生命をあずかる医者としての云うに云われぬ憤懣の現われとして考えられないだろうか。病気をなお歩のが先か,制度が先かは医者の立場からは自明の理である。これが武見氏の持論でもある。先般の精神神経学会に出席された方は永俣病の実状を目のあたりに見て改めてその恐ろしさに認識を新たにしたことであろう。原因が水銀中毒あるいは他の何であれ,とにかくそこに多くの不治に近い患者が明日への希望なく生ける屍の如く横たわつている有様は実に悲惨である。貧しいが故に魚を食べる。そうと分かつていても食べざるを得ない実状なのである。かかるむしろ人工的とも考えられる恐ろしい病気から尊い生命を守るために医者として,また人道主義的立場からももつと大きな怒りが発せられてしかるべきである。とにかく医者としては最善をつくしてなおさなくてはならない責務がある。かかる場合にも医療制度にしばられて最善の診療が出来ない状態では医学の堕落である。"医は仁術なり"とは古くして永遠に新しく生きている金言であり算術に堕してはならない。医者として,かつまたヒューマニイストとして良心的な診療が自由に出来るような医療制度が望まれるし是非とも必要である。
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