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あとがき
H
pp.71
発行日 1958年1月1日
Published Date 1958/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200640
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- 文献概要
自然科学の著作では人文科学の著作にくらべて名著と云われる書物の著作者を変えた改訂が行われることが多いようである。Rauber-Kopschの"Lehrbuch und Atlas der Anatomie des Menschen"の如きがそうであるし,日本でも呉・坂本・沖中「内科学」や茂木・島田・岩原「外科学」などがある。Rauber-Ko—pschの解剖学も,改訂者のKopschが既に鬼籍に入つたから,何れ改訂版が出る時にはどういう書物になつて生れ変るであろうか。全然消えてしまうことはなかろうから,誰か改訂者が選定されることになると思われる。
このように世代を異にした改訂が行われ,名著の名前が後々まで伝えられるにいたるのには,種々の理由がある。(1)自然科学の記述は,人文科学と違つて,科学的な客観的記述の集積であるから,比較的没個性である。従つて,他の人の手が加わつても,その間にギヤップが生じない。(2)自然科学の研究や,その発表自体が元来グループ・ワークに依存したものである。たまたま,それが時代をへだてたグループ・ワークになるだけの違いである。(3)人文科学の世界に較べて自然科学の世界の方が,まだ封建的な残滓があり,後進の学者が先進の学者の遺業を継ぐ雰囲気が残つている。(4)出版社が権威によりかゝる傾向があり,売り込んだ名声に依存する傾向がある。
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