テンカンの臨床統計的観察

Clinico-statistical observations on epilepsy

　テンカンの臨床症候学的観察は，医学の最も古い時代から今日に到る迄，様々の記載として残されて来た。そしてテンカンの臨床症候学が，その病因論的研究，病理学的研究，脳波，治療，実験的研究等に直接の端緒を与える重要な基礎であることはいうまでもない。今迄に，不明な部分を明かにする為に役立つて来た多くの臨床統計に於て，すべての研究者達が一致した意見を持つ部分もあり，又全く意見の異る部分もあるのであるが，これは統計の対象資料の範囲やその集取の方法が一定せず，或は偏つていたり不確実であつたりする場合も少くないことによるものと思われる。殊に我国では多数例での確実な統計的観察は殆どなく，テンカン症候学の全貌を把握するに困難を感ずるのである。

　この報告の中で我々が述べる数値は諸家の報告と必ずしも一致せず，安易な劃一的な結論づけには程遠いと思われるものもあるが，とにかく我々は数年前から，上記の如くテンカンの全貌を知ろうという意味で，特にその確実さという点に留意しつゝ資料を集めることに努力し，且今回臨床的観察のみによつて結果を整理してみた。我々の資料集取方法はすべて直接患者及びその家人から聴取したもので，そのすべてが当科で入院又は通院治療を受けたものであり，時期的には昭和24年以後当科を訪れたもので現在尚お通院加療を続けているもの535例が対象資料になつており，1年以上数年に亘り経過が観察されている。臨床症状に不明の部分がある場合はカルヂアゾール誘発法を試みて発作の詳細を観察し，又脳波所見を参考にした場合もあつたが，整理の基準はあくまで臨床観察に置いた。尚お資料の不備不確実なものは除外したが，症例による撰択は行わなかつたので，テンカン全体についての比較的自然な様相を観察しているものと考えられる。

Clinicostatistical observation were made upon 535 epileptic patients.

1) Regarding the type of epileptic seizures, there was no major difference in % concern-ing grand mal and psychomotor seizures com-pared with the reports from U.S.A. but the percentage of petit mal seizure was extremely low. (Authors 4.1%, gibbs 10.5%, Lennox 31.7%)

2) Of all the patients, 42.0% had aura, which was somewhat lower than the 56.4% given by Lennsx, because we did'nt classified motor phenomena as aura.

3) The cases of psychomotor seizures weremost frequently accompnied by aura, particu-larly visceral aura.

4) 64.5% of all the patients developed their first seizures between the age 10~25.

5) Regarding the past history, the birth in-jury was most frequent, and as characteristic to our material, Ekiri and Japanese Encephali-tis were also very frequent.

6) Family history of epilepsy was noted in 15.1%.

7) So-called genuine epilepsy, in which any exogenic cause was not discovered amounted to 61.8% of all the patients.