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(I)
中枢神経系の腫瘍は,極めて稀な無症状性に経過するもの(所謂Quiescent Tumor)をのぞいて常に,多かれ少なかれ脳や脊髄の徴候を示し,その発生部位がこのような独特な臓器に求められるので,一々の構造や起原はさておき,まづ臨床家に脳腫瘍,脊髄腫瘍の存在をはつきり教えてくれるものである。之に比較すると,同じく神経系のものであつても,一度それが末梢系にぞくする段取となると,臨床家にとつて,話はまるでちがつてくる。未梢神経が,全身いたる所に色々な形態で散在している以上,当然の事にすぎないとはいえ,中枢系と末梢系とを対比させて腫瘍を研究する場合,病理畑すらも,臨床家に劣らずその腫瘍の性格が,組織学的検索以前には殆んど予想しがたい。臨床家が,事前に,そのようないたる所の,脳脊髄以外の臓器や組織に発生した腫瘍について,性格を判定しえないのは,余りにも当然であろう。
事実,中枢神経系の腫瘍は見た眼には派手であるし,部位が臓器として固定されているので,本来の重要性がしらずしらず一段と磨きをかけられて万人になじみ深くなつたのも,無理はない。ところで末梢神経系の腫瘍は,他の性格の様々の雑多な型と共に出現し,とりわけ神経性格を暗示するような症状につきまとわれない為もあつて,兎角地味であり多くの人の眼から注視されないで放擲された傾きがないとはいえない。現に,末梢神経系の微妙な正常の姿を知悉しない以前に,確にそれにぞくするものがやむなく他の性格に帰せられ,為に文献がかつて誤つて報告されたことも少くないし,実際の出現以下に寡少に認められたことは全く疑いを入れない。こゝ数年間,新たな装いをもつて特異な末梢神経系の腫瘍が,文献に散見され初めているのをみるにつけ,尚更その感が深い。
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