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1.緒言
腦髓以外の部位に加えられた外科的侵襲後患者がある期間を經て,諸種の精神症状を呈して來ることは稀有では無い。是樣な所謂術後精神障碍症は相當古くから認められ,既に1902年Pilzが本症の統計的觀察を行つて居り,其後内外に於て外科その他部門から多數の報告をみている。その發生頻度はVolkmann, Kleist,瀨尾等に依ると概ね全手術例の0.1—6.5%の間にあると報告されている。此の所謂術後精神障碍症をVolkmannは真性術後精神病と假性術後精神病の2つに分け,前者は手術以外に直接精神障碍の原因と見做す要素の考えられない場合を云い,後者は藥劑その他の中毒性精神病と疲憊性精神病とを總括している。これに對してKleist,下田山下,和氣等は眞性術後精神病に單なる反應性精神病及び手術の結果である疲憊性乃至自家中毒性精神病を含ませている。本症の臨床的症状はVolkmann等に依ると概してAmentiaの一般型である精神錯亂症が多く,それに興奮状態の關係あるものが多數を占めて,抑欝型は比較的僅少であるとされている。之等精神異常の多數は術後2—14日の間に發來して,經過は一般に短く,而してその豫後は概して良好であるが,少數例は重篤な經過をとるものがある。
さて此等精神症状が果して腦髓内の器質的變化に依るものか,或は單に官能性障碍に依るものかどうかは近年まで確定されていなかつたが,昭和9年下田,山下は真性術後精神病の2剖檢に於て非中毒性増殖性腦炎(即ちWernicke氏假性腦炎,或はWernicke氏出血性腦灰白質炎)を認め,その後宮坂,和気,大久保等もこれを確認した。
筆者は最近松倉外科教室に於て虫垂炎手術後發した本症の1例を經驗し,剖檢に依りWernicke氏假性腦炎に一致した病理組織像を確認し得たので,こゝに此を報告し,諸賢の御批判を得たく思うものである。
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