Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
序言——大腦皮質の解剖學の歴史的概觀
大脳皮質に關する研究は,その範圍の廣いことと構造が複雑であることのために,その他の部分の研究に比べて,幾分遲れて發達してきた。即ち,肉眼的解剖學に於ては,大脳回や大脳溝の複雜な形状は,Sylvius (1614—72)やRolando (1773—1831)らの先駆的研究があつたとはいえ,長く「マカロニーの塊り」の域を脱せず,ようやく19世紀の後半に至つて,Hushke (1854), Gratiolet(1839, 57), Reichert (1859), Bischoff (1869)らを經てFcker (1869)による準備的な系統化が出來上り.それ以後は,多數の學者による發生學的,又は比較解剖學的研究が相續いて,19世紀末に,Retzius (1896)やSmith(1895—1907)らの勞作によつて,一應脳溝像や脳回像の標準的研究ができ上り,今世紀に入つてからは,主として,統計的ないしは人種的な研究が多く行われたとみてよいであろう。一方,大脳皮質の微細構造の研究は,イタリー人Gennari (1776)による,人脳後頭葉に於けるいわゆるジェンナリー氏線條の發見に初まるといわれるが.その後Vicq d'Azyr (1784), Soemmering (1788)の同線條の確認を經て,Baillarger (1840)は,同樣の線條は,大脳皮質の廣い部域に存するものであり,又時として2本よりなることを知つたが(内及び外バイヤルジェ氏線條),いわゆるジェンナリー線條は,この外バ氏線が殊に著明に發達したものに外ならない。これらのいわば豫備的な研究につゞいて,大脳皮質の構造を本格的に精査したのはMeynert (1867, 68, 72)で,まず彼れは皮質が水平に走る層構造を示すことを知り,これに5層を區別したが,これは後年Lewis (1878)がその第5層をさらに2層に分けて6層となり,廣く大脳皮質の基本的構造となつている。Meynertはまた大脳皮質を(1)灰白色の表層をもつた皮質と(2)白色の表層をもつた皮質とに分けたが,これは今日のいわゆる外套(Pallium)と嗅脳(Rhinencephalon)又は等皮質(Isocortex)と異皮質(Allocortex)の區別にほゞ一致している。その他Me—ynertは,皮質細胞の形と機能の關係についても,錐體細胞は運動性,顆粒細胞は知覺性,紡錘細胞は聯合性であろうかという卓抜な推定をして,後世の層的機能局在説の先駆をなしているといえる。
Mleyneriの研究につゞいて,19世紀の終期に,大脳皮質の細織學は,種々の染色法の發見,改良と相侯つて目ざましく發達した。部ちニッスル染色法(Nissl, 1882),髄鞘染色法(Wdgert, 1882),紳纒膠染色法(Weigert, 1886),鍍銀法(Golgi, 1883, Cajal, 1900-06, Bielschowsky,1903)らの發見によつて,神脛細胞や繊維の詳しい検出が可能になり,Golgiによる錐細胞の研究やいわゆるゴルヂー氏2型細胞の護見,Cajalによるカハール氏細胞(Retzius)や,皮質求心性繊維(Ramon'scheFasern, Kölliker)の發見等があり(註Beizによる亘大錐瞳細胞の發見は1874),かくして大脳皮質の主要成分は次ぎ次ぎと瞼出され,それらの記載はKöllikerの「Gew—ebelehre」(1896)にほ怠集大成された。ところが20世紀に入ると,大脳皮質の構造に關する研究は,上述の組織嬰的研究とは大分趣きを異にした方向に向い,いわゆる皮質の構築學ないしは分野學の形をとつて,細胞構築(Cytoarchitectonic)や髄鞘構築(Myeloarchitectonic)や,あるい鴛稗纏膠構築(Glioarchitcctonic),血管構築(An—gioarchitoctonic)等の立場から,廣く大脳皮質を全般的,系統的に調べで,皮質各部域の異同によつて分野を設け,あるいは動物相互間や入間との間の相伺性をしらべ,ひいては各部域の機能を知ろうとするようになつた。即ちCampbell (1905)は細胞構築的に入間の一半球に20野を分ち,Smith (1907)はバイヤルジェ氏線條の發育度によつて28野を區別したのについで,Brodmanu (1900,1909)は人及び多歎の哺乳動物を比較研究して,人脳皮質を細胞構築的に11域(Regio)52野(Feld, Area)に分け,その分野は,その後の翠者の追加,訂正をろけつゝも長くこの方面の研究の基準となつた。その他,Vogt夫妻(1919)による髄鞘構築的分野,Flechsig (1920)による髄鞘發生的分野,Economo及びKoskinas (1925)による細胞構築的分野などがこの方面の主な研究であり,我が國に於ても呉,三宅,杉田(1921)は髄鞘染色法による標本を用いて,繊維の太さによる分野を行い,さらにBielshowsky氏染色による神脛原纖維購築(Fibrilloarchitectonic)の立場からの分野を企て(1922),その外平光(1924, 25)の大脳皮質表在繊維の髄鞘發生的分野研究や.安部(1928)の皮質各部域の細胞密度の研究などがある。
Copyright © 1950, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.