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はじめに
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経系における慢性炎症性疾患であり,脱髄が主な病態である。臨床症状の初発年齢は20歳代後半から40歳ころまでに多く,その多くは再発寛解型と呼ばれる臨床経過をたどる。すなわち,急性期とも呼ばれる臨床症状の「再発」をきたし,自然経過もしくは副腎皮質ステロイド投与により,後遺症の程度に差はあるものの,臨床症状の「寛解」がみられる。一人あたりの年間の再発回数は0.5~1.0回であり,一定の年数経過後は年齢とともに再発回数は減る傾向にある。再発時には病巣内にT細胞を主体としたリンパ球や活性化したマクロファージの浸潤,炎症性サイトカインの増加などがみられ,MRIでしばしば造影効果をもつ病変として描出される。一方で,MSに特徴的なMRI所見として側脳室から放射状に広がる病変をしばしば認めるが,この病変は造影されることなく慢性的に拡大し11),その面積は脳梁や大脳の萎縮と強く相関することが知られている8, 22)。また,発症後約10年で欧米のMSの半数は慢性進行型に移行し,徐々に痙性対麻痺などが進行することが知られている。
MSの治療は,数年前までは,再発時のステロイド治療が唯一有効な治療法として用いられてきたが,近年再発予防効果のある治療法としてインターフェロンβ(interferonβ:IFNβ)療法が確立してきた。また,当初はその再発予防効果が注目されたIFNβであるが,最近の知見からは脳病変の数や脳萎縮の進行を抑制する効果もあることが認められるようになり,MS治療の中心になりつつある4)。IFNβのMS病態における抑制効果の正確なメカニズムは未だ不明であるが,ケモカインやサイトカインの動向などから,Th1優位な環境からTh2優位な環境へのシフトが重要な役割のひとつとして考えられている24)。すなわち,MSでは,慢性的に存在する病態(おそらくTh1優位な環境)があり,IFNβなどによってもたらされる免疫学的な変化(おそらくTh2優位な環境へのシフト)がその病態を抑制し,再発予防や進行抑制に働いていると考えられる16)。したがって,MSにはTh1主体の,慢性的な病気の進行に関わる病態が存在し,不定期に生じる急性の炎症性の発作がこれに加わった疾患と考えることができる。
この慢性的に存在する病態がMSを理解する上で非常に重要と考えられるが,その本態は不明である。われわれはこの病態を解明するため,MSの経過中で絶えず存在する髄液中のオリゴクローナルバンド(oligoclonal bands:OB)に注目し,その存在意義や病態への関与について検討してきた。欧米においてはMSの90~95%で陽性になるといわれるOBだが,日本人での陽性率は低く,その重要性は軽視されてきた経緯がある。しかしわれわれは,これまでの結果から日本人MSにおいてもOBはMSの慢性炎症を示す重要な指標であると考え,その有無は異なる病態の存在を示唆していると考えている。本稿では,当科におけるこれまでのOBに関する知見を中心に,MSにおけるOBの意義について概説する。
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