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症例呈示
症 例 死亡時59歳,女性
主 訴 嚥下障害,構音障害,両上肢筋力低下,痴呆
現病歴 1995年(53歳時)より性格変化,易怒性に気付かれるようになった。1998年頃(56歳時)より1 km離れたマーケットまで,1日に何回も行き,物を1つ買っては戻ってくるという行動を繰り返すようになった。同じ頃,体のだるさを訴え仕事も休みがちだったが,無目的に家の外を頻繁に徘徊するようになった。また家事もせず夫に対して怒り,暴力を振るうようになった。
1998年(57歳時)4月,近医精神科を受診し痴呆を指摘される。同年10月には食べ物が飲み込みづらくなった。同年12月より上肢の筋力低下も出現,萎縮も目立つようになった。1999年(58歳時)3月,誤嚥して近医に緊急入院。その際舌の萎縮を指摘される。誤嚥するものの,この時点ではなんとか経口摂取は可能であった。長期療養目的で,同年7月初石病院に第1回目入院した。
既往歴・家族歴 特記すべきことなし。
第1回入院時現症
全身所見は異常なし。
<神経学的所見>意識は清明。知能は,“年齢は?”の質問に対しては“47”,“58”と色々答えるが,他の質問に明確な返答はない。強制泣きを認める。開閉眼などの単純な命令には従えるが,複雑な命令には従えず。脳神経系:瞳孔左右同大,対光反射正常。眼球運動:命令には従えないが,自発的には明らかな制限なし。顔面筋力低下なし。顔面感覚正常。構音障害(slurred speech)あり。舌萎縮あり。運動系:両上肢挙上MMTで3-4/5。両上腕部に線維束性攣縮あり。両下肢MMTで4/5。筋緊張,両上下肢正常。深部腱反射:両上肢減弱。両下肢亢進。Babinski徴候+/+,Chaddock徴候+/+,小脳系:指鼻試験 検査不能。感覚障害:なし。
第1回入院後経過
食事はミキサー食で摂取可能。上肢近位筋筋力低下はあるが挙上可能,下肢筋力低下は目立たず歩行可能であった。他施設に転所したが,社会的な事情にて1999年(58歳時)9月27日,初石病院に第2回目入院。
第2回入院時現症
<神経学的所見>意識清明。知的機能については,年齢は誤答,計算は“100-7=93”と正答,93-7は不可,物品呼称は可,野菜の名前は3つまでは返答。脳神経系:眼球運動;水平方向5/5,垂直方向4/5。顔面感覚正常。眼輪筋,口輪筋とも筋力は減弱。構音障害あり,言語は不明瞭。嚥下障害あり。僧帽筋,胸鎖乳突筋の萎縮はなし。舌の萎縮,線維束性収縮あり。筋力はMMTで両側三角筋2/5,上腕二頭筋3/5,三頭筋3/5,手首伸展4/5,屈曲4/5と近位筋優位の筋力低下あり。下肢は腸腰筋4/5,大腿四頭筋4/5,膝屈筋群4/5,前頸骨筋4/5,腓腹筋4/5。筋に線維束性攣縮を認める。筋緊張は両上下肢とも低下。小脳系:異常なし,歩行steppage gait(鶏歩)の傾向あり。深部腱反射:両上肢低下,両下肢正常。Babinski徴候-/-,Chaddock徴候-/-。感覚障害なし。
第2回入院後経過
病棟内では徘徊することが多く,食事は両上肢筋力低下はあったが,むせながら自力摂取可能であった。また,強制泣きが頻繁にみられた。2000年(59歳時)2月10日および11日に,立っていて両側眼球が上転し後方へ転倒した。てんかん発作が疑われ2月15日に脳波検査を施行したが,発作波は認められなかった。同年2月よりむせがひどく,胃瘻造設し経管栄養を開始した。しかし,以後発熱を繰り返した。11月には発声あるのみで反応に乏しくなった。2001年(59歳時)3月には両上肢屈曲拘縮。また,両上肢遠位筋に筋萎縮あり。6月には自発運動は両下肢のみわずかに動かす。同年7月には血中酸素濃度が低下し酸素投与を開始。8月2日には傾眠がちとなり,呼びかけには開眼したが発声はしなくなった。両上肢はまったく動かさず,両下肢は時々自発的に動かすのみであった。同年10月20日,意識レベルが徐々に低下し,顔面,結膜の浮腫が出現,10月22日には酸素0.5 l投与にて,二酸化炭素の貯留が著明なため,酸素投与を中止。10月23日には意識レベルJCS III-200。胸部X線上で心拡大あり。うっ血性心不全の診断でジギタリス,利尿剤投与を開始。24日には意識レベルcomaとなり,10月25日6時37分死亡した。
We report a 59-year-old woman with generalized amyotrophy and dementia. She showed personality change at 53 years of age. When she was 56 years old, she began to show abnormal and violent behaviors. At age 58, she developed dysphagia and amyotrophy of upper limbs. She was admitted to a hospital for the treatment of aspiration pneumonia. She was severely demented and showed pseudobulbar palsy, amyotrophy of tongues, weakness of upper limbs, and pyramidal signs. She was still able to walk by herself. Dementia, pseudobulbar palsy, and amyotrophy progressed rapidly. At age 59, she became bed ridden and required tube feeding. She died by aspiration pneumonia at age 59. The patient was discussed at a neurological CPC and the chief discussant arrived at the conclusion that the patient had ALS dementia. Other possibility discussed was Pick's disease with amyotrophy. Post-mortem examination revealed severe lower motor neuron degeneration. The upper motor neurons were unaffected. Neuronal loss was not observed in the cerebral cortex, but moderate gliosis was seen in the cerebral white matter. In addition, the substantia nigra was moderately degenerated. There were ubiquitin positive neuronal inclusions in the granular cells of the dentate gyrus. Also, Bunina bodies were seen in the neurons of spinal anterior horns. These findings were characteristic pathology for ALS with dementia.
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