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症 例
症例は18歳男性。2005年1月22日,飲酒後路上に倒れているところを発見された。状況からひき逃げが考えられた。当院へ救急搬送された。搬入時,意識はJCS 20であり泥酔状態であった。左後頭部に裂傷を認めた他は体表に外傷なし。頭部CTでは,左側頭葉底面に3mm程度の外傷性脳内出血を認めた。他に明らかな損傷を認めなかった。点滴にて経過を観察したが,アルコールの影響が抜けた段階でもJCS 10の意識障害が遷延していた。そのため,びまん性軸索損傷(DAI)の可能性も考えて受傷6時間後MRIを施行した。MRIでは,CTで認められた脳内出血およびその周囲の脳浮腫を認める他は明らかな異常所見は認めなかった(図A)。その後,保存的に加療を行ったが,受傷後60時間の段階でも意識障害は変化なく継続していた。再度MRIを施行。両側側頭葉,左中脳にFLAIR画像,T2強調画像にて新たな高信号域を認めた(図B)。画像所見,神経学的所見からDAIと診断した。
コメント
DAIは,脳実質に作用する回転加速度により神経線維が断裂して生じる病態であり,意識障害に比べてCTでの異常所見に乏しいことが特徴である。近年MRIにて,DAIの画像所見について詳細に分析されている。出血を伴わない場合,病変はT2強調画像,FLAIR画像にて高信号域に描出される。また,出血性病変はT2*強調像で感度よく描出される1)。本症例でも,出血性病変はCTやT2強調画像と比較してT2*強調像で極めて明瞭に描出された。
DAIの際,病変は皮髄境界部,脳梁,脳幹背面に多いとされている3)。本症例では脳梁病変は認めなかった。
T2強調画像で,高信号域に描出されるDAIの病変の病理学的検討では,軸索の損傷とそれに伴う浮腫性変化がみられ,これが画像所見に反映されている3)。そのため,浮腫性変化が乏しい急性期に病変が描出されず,後に描出される可能性が考えられる。しかし,このことを示した報告は検索できる限りでは見当たらなかった。本症例では,6時間後のMRIと60時間後のMRIでこの点について明確に示している。また,本症例を通し,急性期に病変が認められなくともDAIを疑う場合は再検査が重要であると考えた。また,浮腫性変化であるので時間経過で病変が描出されなくなることがあるが,この点については佐藤ら2)が報告している。
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